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犬連れ登山へのメッセージ

犬と山を考えるというテーマでLIVING-WITH-DOGSでは掲載を続けておりますが、そんなおり、自然の中で犬と暮らす「犬と山暮らし」の作者、波多野鷹さんから、貴重なメッセージをいただきました。
Living-with-Dogsがお勧めしたいのは、まさに波多野さんのおっしゃることでした。もう一度、原点に戻って犬連れ登山について考えてみましょう。波多野さんより掲載のご了解をいただいております。(LIVING WITH DOGS)

犬連れ登山へのメッセージ

イヌ連れイヌなしに関わらず、「森林限界上へ行く」登山については私は冷ややかです。

本気のアルピニズムについてはその限りではありません。生態系への問題があるとしても、生態系にインパクトがゼロな「ヒトの営み」が考えにくいからには、登山のみを非難すべきでないので。マナーやモラルがおのずと形成されてゆくのを待ちたいと思い、かつ、そうなるであろう、と楽観しています。

ただ、イヌ連れイヌなしに関わらず、「なんとなく山頂へ」の登山には批判的です。広い意味での野歩き、山歩きはもっと豊かなものなのに、自分で楽しみを見つけるのでなく、アルピニズムの悪しき縮小コピーとして「山頂へ」なのではないかと疑うからです。山頂に立つのが本当に楽しいかたが目指されるのはよいのですが、「山頂に立つのは楽しいことのはずだ」とのお考えのかたが少なくないように思われてなりません。そうやって、自らの楽しみを見つける努力をせずに「ありもの」に飛びつくから、特定の地域にひとが集中しすぎ、生態系へ与えなくてもいいインパクトを与えているのではありますまいか。

要するに、イヌの有無に関わらず、「特定の狭い範囲の」「森林限界上に」「大勢がいくこと」が問題と考えます。

その中でイヌ連れを禁止しようというのは、まあ、弱いものイジメの一種でしょう。イジメても反撃が弱そうで、かつ、何か手を打ったという「実績」にはなる規制をして、もつと本質的で、が、強い抵抗が予想される「登山者の人数規制の必要性」を隠そうとする…。

規制が必要なら、「有効な」規制を、と思います。

イヌ連れ者としてどうすべきか。

規制が予想される地域、標高には行かなければいい、と考えます。本気のアルピニズムにはイヌは邪魔でしょうし、無理に連れていかれたイヌも迷惑です。

「イヌと楽しく歩くため」ならば、有名ルート、規制されそうな地域にわざわざ行く必要はありません。

手抜きせず、登山ガイドでなく地勢図や地形図、森林管理局から出ている林業施行図などを読み、そして森林管理局などに工事予定を問い合せれば、気がねなく歩けるところはいくらでもあります。森林限界上に、また有名山にこだわらなければ、ピークも踏めます。一日歩いても他の登山者に一度も会わない山域はいくらでもあるのです。

…山菜とりキノコとりの時期はちと例外ですが。そうそう、地元の猟友会あたりにも問い合せて、イノシシ狩りとバッティングしない配慮もお忘れなく。

が、あれこれ注意すれば、山を一人占めするのは難しいことではありません。糞も気にしなくてすみます。人が通らないルートで、あるいは林内なら。クマやキツネの糞がごろごろしているのですし、ちゃんと分解されるようになっています。軽く埋めるか落ち葉をかければ充分です。 

他の登山者と会わない、ということは、それなりの覚悟と準備も要るのは確かです。登山計画書のポストがないようなところですから、遭難時にも救助はあてにしない、自分たちだけでなんとかする、できるような準備と、自分たちだけでなんとかできない時には諦める、ような覚悟が要るでしょう。

しかし、救助が効くほうが異常なので、いわば当たり前のところに立ち返るだけ、とも言えます。

そして、そんなに恐ろしがることもないのです。

ヒトは森林限界上に生息するように出来ていないのに森林限界上に行くから遭難は起こりやすいので、森林限界の下なら、そして危険を承知で山頂目指すのでなく、楽に歩けるところをブラつくのなら、そんなに危ないこともありません。「森林限界上で救助アリ」と「森林限界下で救助ナシ」で危険率に大きな違いはないでしょう。…サバイバルのコツを知ってさえいるのなら。

他の登山者との軋轢に関していうのなら、「会わないところに行きましょう」というのにつきます。

イヌを放すことはふたつの観点から考えます。

生態系へのインパクト。特別に狩りがうまいイヌでないのなら、重大視には及びません。ライチョウの雛や卵云々となると問題です。キツネなんかが少ない場所で辛うじてやっているのにイヌが入り込んだら。高山植物もしかり。踏まれるようにできてませんから。

森林限界下なら、そんなに気にしないでいい、と思います。間抜けな飼い犬に捕まえられるような間抜けな野生動物は滅多にいませんし、植物だって大動物に踏まれるのは折り込みずみ、さらに面積あたりの踏み荒し圧は微小ですから。

イヌが迷子にならないか、という面から考えると、「しっかり訓練してから」をお勧めします。迷子になったという張り紙、首輪つきの腐敗した死体、首輪つきでうろついているイヌ、見ることがあります。

呼び戻しへの過信は禁物です。夜中の公園や静かな日曜の河川敷と、山の中は大違いです。鼻先からノウサギが逃げ出しても命令によって止められる自信がない限り、出先の山で放すのはお勧めしません。通い慣れた場所で、特定のコース以外をも歩いてて、イヌが面として地形を飲み込んでいるのなら、走って行ってしまっても30分後に帰ってくると期待できなくはありませんが、初めての山で帰って来ると期待するのは…。

他人の評価の尻馬に乗って有名どころに行くから問題が起きるので、その前にほんのひと手間かけさえすれば、他人に迷惑をかけることもなく、規制されたり非難されたりすることもなく、心置きなくイヌ連れ山歩きは楽しめるものでありましょう。
(「犬と山暮らし」の著者 波多野鷹 放鷹道楽)(2002/03/14)

※ 波多野鷹
1967年10月10日、東京生まれ。1985年、物書きに。1992年頃から鷹狩りを始め、1995年に日本放鷹協会諏訪流鷹匠に認定さる。妻一人、鷹・隼約10羽、犬5匹猫1匹その他の動物たくさんと長野の山中に暮らす。
NPO法人日本放鷹協会理事。The British Falconers' Club、North American Falconers Association、ヒトと動物の関係学会、日本爬虫両棲類学会、日本鳥学会、日本動物行動学会、日本野生動物医学会、希少動物人工繁殖研究会、日本飼育技術学会、日本野鳥の会、日本推理作家協会、日本SF作家クラブ、各会員。

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